いつもなら平気で駆け上がれる土手、足がふるえていたのか上がれない、夏の上掛けを背中にかけている。突然足が滑って転げ落ちると同時だった。夜中の十時、目の前が真っ白になると同時に耳が痛いバシャッという音と同時に、土手下の溝に落ちた俺の背中にバラバラと何かが落ちた。もう耳もたたかれたようにガンとして何も聴こえない。真っ暗だ。ジーと溝の中に転がり、はまったまま。どの位時間が経ったろうか。ハッと気がついて、手のひらを顔の前に、口と鼻で息をしてみた。
「あ!オレは生きている、息が出来た」。何とも言えずホーッとした。「おーい」と暗闇の中に呼んでみた。近くで「おお大丈夫か」という声がした。そして人が動く気配が、又近くから大きな話し声が聴こえて来た。
その夜、空襲警報が解かれて、寮の部屋に戻り、級友と皆で無事を喜びあった。昭和20年5月、清水市での艦砲射撃の時だ。土手上に砲弾が落ちた。土手下に転げ落ちたので、土石をかぶっただけで命が助かった。運が良かった。寮で友が、「おい、血が」と指す右横腹から、土混じりに血が流れていた。触ってみると少しヒリヒリする。砲弾の破片がかすめたか!
本当に運が良かったのだ。まともに来たら腹の中を貫通していただろう。
人間が作り出したこんなことはもう沢山だ。これが戦争だ! 我々人間が作り出す罪悪だ。
戦争の無い世界を!!平和を守っていこう。
|